永遠の夜 「夜行」
僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。
私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。
十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。
十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。
夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。
私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」(Amazonより)
総合評価:★ ★ ★ ☆☆
内容はポップな青春ではなく、永遠の夜の物語
森見登美彦作品は、「夜は短し歩けよ乙女」「恋文の技術」「四畳半神話体系」とかのテイストの方が好きなのですが、これは「きつねのはなし」とかに近い感じでした。
表紙のイラストは非常に可愛らしいのですが、内容は怪奇小説のような雰囲気で、結局「あれはなんだったの?」っていう問いにはっきりした答えが与えられず、すっと冷たい感触が残ります。
読んでるうちに、自分も体験したことがあるような気がしてしまいました。いやそんなことないんですけどね。
あの坂道を上った先の家、電車の車窓から一瞬見えた燃える家、とか。
そして自分の近しい人がそれに魅入られてしまい、段々と何かがずれて、気付いたら自分も後戻りできないところまで来ている。
今の今まで一緒に歩いていた友人が、振り返るとそこにいない。
知らず知らず抗えないものに流されていく感じが薄気味悪かったです。
ミステリー?ファンタジー?
ジャンル的にはなんでしょう。パラレルワールドだから、ファンタジーなのでしょうか。でもそれにしては夢がなくて、淡々と自体が回っていきます。
現実じゃないけど所々現実で、日本昔話を体験してる感じ。
あちらで会えたあの人がこちらにはいない、という状況は、切なかったですね…
文体はシンプルで読みやすい
ポップ系の小説だとくすりと笑ってしまうような表現も多い森見氏ですが、この作品は始終シンプルな文章で書かれています。
想像しやすいし、入り込みやすい。
とっても読みやすいと思います。
ちょっとおすすめしづらいけど、いい作品。
万人受けする類のものではないかと思いますが、一癖あるのが森見登美彦作品ですからね。
ちょっと変わった小説が読みたい、っていう時にぴったりだと思います。